御曹司と愛され蜜月ライフ
「そんなの、しますよ……するに決まってるじゃないですか」



迷ったのは一瞬のこと。私は羞恥心よりも自分の本当の気持ちを優先し、小さく答えた。

それを素直に口にするのは、正直かなり恥ずかしかった。けれどもどうしてか今このときは、照れ隠しの嘘をついてはいけない気がしたのだ。


恥ずかしさに耐えるため、私は眉間にぎゅっと力を込めながらわざと渋い顔を作る。

そんな私を見上げて、近衛課長はとてもうれしそうに笑った。



「そうか」



ひとこと、息を吐くようにつぶやいた課長が、不意に私の方へと手を伸ばす。

そこにあるのは、先日彼がくれたプレゼントで。



「そういえば、言ってなかったな。……このピアス、やっぱり卯月に似合ってる」



その指先が右耳に触れて、ピアスにぶら下がるパールを揺らした。



「これを選んでよかった。成人した女性にこんなことを言うのは相応しくないのかもしれないが──かわいいよ」

「……ッ、」



ボッと火がついたように顔全体が熱くなる。まっすぐな眼差しでてらいなく向けられる笑顔と甘いささやきは、簡単に私の体温を上昇させた。


病人のくせに。単なる、隣人のくせに。

本当にこの人は、いちいち私の心を乱すことに長けていると思う。

……これじゃあ、私の方が高熱出しちゃいそうだ。

課長から視線を逸らしながら、なんとか言葉を探す。



「あ、ありがとうございます……あの、もうそろそろ、ちゃんと寝てください!」



最後の方は恥ずかしすぎて早口になってしまった。彼が身じろぎしたことによって軽くめくれていた布団をまたかけ直す。

ふと課長が、布団の端を掴む私の手に自分の手のひらを重ねて来た。その感触に、私は本気で驚いてしまう。
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