御曹司と愛され蜜月ライフ
「……っか、」
「さっきも思ったんだが……卯月の手は、ひんやりしてて気持ちいい」
言いながら、課長の親指が私の左手の甲を撫でるように動いた。
もうずっと、ドキドキを通り越して心臓が痛いくらいだ。震えるくちびるで答える。
「わ、私、冷え症なので……」
「そうか。冬場は大変そうだな」
私の手を掴んだまま、ゆっくりと課長が右手を持ち上げた。
冷え症なだけじゃない、たぶん今は緊張のせいで冷たくなっている私の左手のひらを、そのままぺたりと自分の頬にあてる。
「でも、熱のせいか今の俺には心地いい。こうしてるとなんだか落ち着くし」
「……ッ、」
っわ、私は全然落ち着かないんですけど……!
そうは思っても言えるわけない。だってなんだか、課長がすごく気持ちよさそうな表情をしているのだ。
いくら手は冷たいといっても、課長のせいでずっと身体は火照っている。私も風邪、うつったんじゃないかな。
すり、と、課長が私の手のひらに小さく頬ずりをした。
「……昔、聞いたことがある。手の温度が冷たい人は、心があたたかいそうだ」
そう話す課長の声は、なんだか隙だらけでいつもの彼じゃないみたい。
うとうととまどろみに引きずられてそのまぶたを細めながら、課長は微笑んだ。
「……きみは、その通りだな」
握られていた手の力が不意に緩む。おそらく真っ赤な顔をしているであろう私の目の前で、課長はすでに穏やかな寝息をたてていた。
「………」
つい口を開きかけて、また閉じる。
はーっと深く息を吐いた私は、さっきまで課長に掴まれていたのとは反対の方の指先で、彼の左目下にあるほくろをそっとなぞった。
「……あったかいのは、あなたの方ですよ」
思い出す。私が作ったごはんを、いつも綺麗に食べて「おいしい」と言ってくれる笑顔。
あの茶髪男から逃げられなくて、心の底から誰かの助けを求めたときに……抱きしめてくれた、大きな身体。
『自分が今できることを、精いっぱいやってるだけだ』
私が、ただ自分を守るため“あの頃”にずっと置き去りにしている気持ちを──こんなにも大事にして、体現できるひと。
……私はそんなあなたに、褒めてもらえるような人間じゃないのに。
彼がくれる分不相応な言葉に、胸をしめつけられながら。それでも私は、しばらくこの空間を離れることができなかった。
「さっきも思ったんだが……卯月の手は、ひんやりしてて気持ちいい」
言いながら、課長の親指が私の左手の甲を撫でるように動いた。
もうずっと、ドキドキを通り越して心臓が痛いくらいだ。震えるくちびるで答える。
「わ、私、冷え症なので……」
「そうか。冬場は大変そうだな」
私の手を掴んだまま、ゆっくりと課長が右手を持ち上げた。
冷え症なだけじゃない、たぶん今は緊張のせいで冷たくなっている私の左手のひらを、そのままぺたりと自分の頬にあてる。
「でも、熱のせいか今の俺には心地いい。こうしてるとなんだか落ち着くし」
「……ッ、」
っわ、私は全然落ち着かないんですけど……!
そうは思っても言えるわけない。だってなんだか、課長がすごく気持ちよさそうな表情をしているのだ。
いくら手は冷たいといっても、課長のせいでずっと身体は火照っている。私も風邪、うつったんじゃないかな。
すり、と、課長が私の手のひらに小さく頬ずりをした。
「……昔、聞いたことがある。手の温度が冷たい人は、心があたたかいそうだ」
そう話す課長の声は、なんだか隙だらけでいつもの彼じゃないみたい。
うとうととまどろみに引きずられてそのまぶたを細めながら、課長は微笑んだ。
「……きみは、その通りだな」
握られていた手の力が不意に緩む。おそらく真っ赤な顔をしているであろう私の目の前で、課長はすでに穏やかな寝息をたてていた。
「………」
つい口を開きかけて、また閉じる。
はーっと深く息を吐いた私は、さっきまで課長に掴まれていたのとは反対の方の指先で、彼の左目下にあるほくろをそっとなぞった。
「……あったかいのは、あなたの方ですよ」
思い出す。私が作ったごはんを、いつも綺麗に食べて「おいしい」と言ってくれる笑顔。
あの茶髪男から逃げられなくて、心の底から誰かの助けを求めたときに……抱きしめてくれた、大きな身体。
『自分が今できることを、精いっぱいやってるだけだ』
私が、ただ自分を守るため“あの頃”にずっと置き去りにしている気持ちを──こんなにも大事にして、体現できるひと。
……私はそんなあなたに、褒めてもらえるような人間じゃないのに。
彼がくれる分不相応な言葉に、胸をしめつけられながら。それでも私は、しばらくこの空間を離れることができなかった。