バンテスト魔法書の保持者
試合の時と同じ表情。


オシレット先輩の本心の‥‥‥一部。


「君、イナリシア王女に憎悪を抱いているだろう?」


「‥‥‥」


「それも、かなり大きなものだ。いつはち切れても可笑しくないほどの殺意を、君は押さえている。違う?」


全ての見透かすような鋭い目線。


なぜか、逆らえない。


私は嘘はいくらでもつける。


でも‥‥‥きっとオシレット先輩には、つけない。


ついてはいけないと、なぜか心が叫ぶ。


「‥‥‥どう、して?」


出てきた声は情けないほどに小さく、そして震えたいた。


「どうして、気づいた?」


「‥‥‥似ているから、かな」


「?」


「僕もね、イナリシア王女には君と似たような感情を抱いているんだ」


「‥‥‥」


「ねぇ、話してくれないかな?君のことを」


「‥‥‥」


凍てつくような視線と裏腹に、声はとても優しいものだった。


安心できる、とても優しい声。


あの者にそっくりで‥‥‥穏やかで‥‥‥


「いい、ものじゃない」


「大丈夫だよ」


「きっと、絶望する」


身勝手な私に。


どこまでも深い‥‥‥醜い殺意に。


「教えて、リューラ」


穏やかに微笑んでくれた目の前の人に、私は思わず溜め息を溢した。
< 276 / 354 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop