バンテスト魔法書の保持者
優しい、綺麗な声がした。


白黒の世界に色が戻る。


辺りいっぱいに純度の高い魔力が満ちた。


周りの草木は天に向かって伸びている。


私は歌うのを忘れ、色の戻った世界を見つめなおす。


展開していた黒の魔方陣はなくなり、手には何も持っていない。


「ファル」


「!」


優しい声がした瞬間、私の視界は真っ白に染まる。


美しい羽が作り出す翼が、私を包みこんでくれた。


涙を一滴流し、私は首に回っている腕をギュッと握る。


後ろから抱きしめてくれる最愛の人の名前を呼んだ。


「ファーザー!」


優しい人が笑っている。


それだけで私の心は和らいだ。


恐怖も不安も、全てを包み込んでくれる。


「ファーザー、だと?」


「私はこの子の親だからな」


「へぇ〜あなたが、ね」


「可笑しいか?」


ファーザーはそう言って青年達を睨み付けた。


回っている腕に力がこもる。


怖い顔をしている。


こんなファーザーの表情は見たことがない。


私に怒った時も、こんな怖い顔はしてない。


真っ白なファーザーに似合わない、真っ黒な暗い瞳。


「ファーザー?」


「ファル、よく聞きなさい」


「?」


「私が合図したら、走ってこの森を出るんだ。
どこか遠くへ、遠くへ逃げなさい」


「え‥‥‥?」
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