ラストナンバーに届くまで。

「楓ー、ご飯よー」
リビングから大きな声でママが呼んでいた。
「はーい、すぐいく！」
ママは単身赴任の父に代わって良くしてくれている。私には一歳下の弟と三歳上の姉がいる。女で一つで育ててくれた母にはいつか感謝したいと思ってる。勿論、父にも。
「そう言えば、お隣の堀崎さんの息子さん、手術するんだってね。」
カチャカチャと食器を並べている母が私に向かって言った。
「いい加減名前覚えなよ、柚樹だよ。まぁ、手術するらしいんだけどさ。」
そう言うと、『好きなの？』とか『気になってるでしょ！』…と、姉に言われるから嫌だ。
「バレー、一緒の子よねぇ、よく遊んでたわよねぇ。あっつっ」
ミトンにグラタンを持った母が話しかけてくる。…でもそれ危ないからやめてほしい。こっちはソレ溢れたら大変なんだから…。
「だから、心配なの。変な誤解はやめてよね、そうゆうの、ないから。」
ガタガタしながら話していると弟の紅が話に混ざってきた。
「なんだ、姉さんまだ柚樹先輩彼氏になってなかったんだ？、マジ意気地無しだな。」
「は？ふざけんなよ」
「…ゲホッゥッ！？」
もぐもぐとブロッコリーを食す弟がムカついたので思いっきり奥に押し込んでやった。
「こーうっ、アンタさっき言われたばっかりなのにー。」
と優しいがこれが母の怒り方でこの怒り方はいつもより怒っているのがわかる。
「あと、楓も食べ物で遊ばないの。桜さんが帰ってきたらどうするの？しかも今日はお父さんが帰ってくる日よ？」
母の怒る癖は把握している、優しく長い。…ま、まぁそんだけ。
「ご馳走さまでした、お腹一杯、美味しかったよママ。」
いつも通り機嫌をとってから自分の部屋にいく、これが日課。

ベッドに腰かけて、考えてみる。　＿柚樹が、もしも記憶喪失になってしまったら。…私はつるめるのか？…幼馴染みと言ってくれるのか？…バレーをできるのか？…。　そんなことを考えていたら夜は明けていた。

「起きてくださいー、楓ちゃんー。」
桜姉さんがユサユサ起こしてくれる。
「ほーらっ、尚美ちゃんが来てるよ？」
「尚美っ？！すぐいく！」
ドッタンバッタン走って着替えて玄関まで行った、　会った視線に向けられたのは、苦しくて哀しそうな顔だった。
「ちょっと、部屋で話する？…いや、中入って…」
空気を読んで尚美を部屋に入れた。
「どうしてそんなに暗いの？、尚美らしくないよ、もっとこう＿…」
『もっとこうやって』と続ける前に尚美が、
「あ。あの、あのね。」
と突っ込んできたから私は聞く体制になってしまった。
「これ、聞いたかな。うーん、あ、あの。…　柚樹君、バレーできなくなるかも、って。」
それを聞いたときに私は意識が何処かへと飛び去っていった気分だった。
「！？　楓！？楓…！？」
そうやって話しかけてくれるが放心状態だったので意識は朦朧なかった。

＿次の日は終業式で私達は二年生を終えた。　三年生、これは試練…。