空に話し掛けて
二人の旅立ち
転勤が決まった時、私は複雑だった。
目の前の幸せを選ぶか、母を選ぶか。

まさに二つに一つ。

彼は付いて来て欲しいと言ってくれていた。
だけど、病気が再び発見された母を残して付いていく事は躊躇った。
素直に母に話した。
迷っている事を…

すると、母は真っ直ぐ私を見て言ってくれた。
「自分のしたい様にしなさい。彼なら大事にしてくれるんじゃないの?」
私は涙ながらにそれを聞いていた。

それを彼に話をし、母を心配してくれたが複雑ながらに喜んでくれていた。

後日、彼は両親に挨拶に来てくれたが、『少しだけ出てこれる?』との電話があり、近くに行った。
すると車に乗るように促され、素直に乗り込んだ。

「萌衣ちゃん達を幸せにしたいから、結婚してください」

この時、私なんかで良いのかと耳を疑った。
でも、素直に返事をする事が出来た。

両親は娘の事を1番心配していたが、彼は目を逸らす事なく返事をしていた。
しかし、彼の手はとても震えていた。

転勤までの間は別々に暮らす様だが、無事に入籍と養子縁組の手続きも出来た。

娘の学校の関係上、私と娘は夏休みに引越す事になり、彼は先に転勤先に引越しをした。

その間、約1ヵ月だったが母との時間を大事にしようと心から思えた。

そんな期間もあっという間に過ぎて行き、ガラガラになった部屋を見て熱い物が込み上げてきた。

引越し当日は話をするのも正直辛かった。
それでも、絞り出して両親に感謝を伝えた。

「今まで本当にありがとうございました」
精一杯の気持ちだった。
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