溺愛伯爵さまが離してくれません!
「驚いた?」

「そ、それはもう・・・」

驚いた私を、奥様は少し笑いながら見ておりました。

奥様が私と同じ庶民の方だなんて・・・。
振る舞いも何もかも、そんな素振りは全く見えなかったのに。

「今はもうなくなってしまったけれど、両親はこの街で露店で物を売る仕事をしていて、私もずっとそこを手伝っていたのよ。ある時に視察でこの街に来てお店に買いに来たのが、私の夫。あちらが一目ぼれしたってね、その日から毎日お店に来てくれて、いつも私に好きだ、と言っては物を買って帰るのよ」

「最初は相手にしていなかった。貴族の方が私みたいな庶民に本気になる訳ないって。でも、毎日毎日通ってくれて・・・。私はだんだんと彼に惹かれていったのよね」

遠くから微かに聞こえるさざ波の音。
心地よい風が吹いて、奥様のドレスの裾をさわさわと揺らします。

どこか儚げなそんな切ない表情。
奥様はさらに話を続けました。

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