溺愛伯爵さまが離してくれません!
「・・・そう言えば」

厨房。
奥様は紅茶を淹れながら、ぽつりと呟きます。

「ついさっきなんだけど、人が訪ねてきたの」

私は食材を棚に置きながら応えました。

「こんな日にですか?」

「ええ。あまりこのお屋敷に人が来ることはないのだけれどね」

ふわりと厨房中に香る紅茶のいい香り。
奥様はお湯がゆっくりと琥珀色に変わるのを眺めながら、話を続けます。

「ドアを開けると、20代くらいの男性かしら?ドアの前に立っていたのよ。少し雨に濡れて服も濡れていたけど、あまり気にも留めていないようだった」

手を動かしながらも、私は奥様の話に耳を傾けています。
奥様は綺麗に琥珀色に染まったのを見届けると、紅茶の入ったカップをカウンターへと置きました。

「その方ね、私にこう尋ねるのよ。人を捜している、どこかで見かけなかったかって」

その言葉に、動いていた私の手がピタリと止まります。
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