溺愛伯爵さまが離してくれません!
役に立たない傘を差して、僕は元来た道を戻っている。
雨は、まだ止むことを知らない。
さらに濃い靄までかかって、先が全く見えなくなっていた。
まるで僕の心の中のようだ。
そう思った。
婦人から聞くその言葉は、天国か地獄か。
その答えを聞いた時、僕はどうなるのだろう。
僕はどう生きていけばいいのだろう。
――その時だった。
僕の横を誰かが通り過ぎる。
一瞬だったけれど、見慣れた懐かしい姿が目に映った。
「――リーナ!?」
咄嗟にその名を呼ぶ。
・・・幻想か、現実か。
後ろを振り向いた時には、その姿はもうなかった。