溺愛伯爵さまが離してくれません!
ある日、レガートは家を売って、私の生まれ住んだ街へと引っ越そうと言い出した。

「この街にいても気分が滅入るだろう?君がのびのびと過ごせる街でゆっくりと時を過ごそう」

その言葉はとても嬉しかったけれど、戸惑ってしまう。
彼はそれでいいのか、彼が生まれ、長年住んだ思い出のあるこの屋敷を、そんな簡単に売ってしまってもいいのか。
そう思う私をよそに、彼は話をどんどんと進め、そして街の外れにある小さく古い屋敷を買い取った。

「私は過去の思い出よりも、今の君との生活を大切にしたいんだ。これからは無理をした笑みではなく、自然に零れる笑みで、毎日を明るく過ごしていきたい。だから気にする事はないんだよ」

私の手を取り、見つめてそう話す。
私は大粒の涙を零しながら、ただ頷いた。

そしてこの街に移り住んで、ようやく私達に平穏が訪れた、
相変わらず裕福ではなかったけれど、街の人々はとても良くしてくれ、食べる物には困らなかった。
彼もまたそんな優しい人達に恩返しするかのように、街をさらに良くしようと働き始める。

交渉事が得意だったレガートは、貿易の取引先への交渉を自ら進んで行い、その結果前よりも輸入される品の種類が増え、そのお陰か近隣の街からも、この街に入る異国の珍しい品を求めて沢山の人が訪れ、街はより賑わう様になった。

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