溺愛伯爵さまが離してくれません!
差し出された手の上に、自分の手を乗せる事にためらいを感じましたが、その手を拒むことが出来ずそっと自分の手を乗せます。
伯爵さまは優しく私の手を掴むと、馬車の中までエスコートしてくれたのでした。

エスコートされたことのない私は、それだけで緊張し身体が熱くなってしまいます。
触れた手もいつまでも熱くて・・・。

私が馬車の椅子に腰を掛けたのを確認すると、伯爵さまは笑みを浮かべながら声を掛けてくれるのでした。

「気を付けて、いってらっしゃい」

「伯爵さま・・・」

その笑みは優しく、それでいて切なくて。
私の心はぐらりと揺れました。

―――その、顔。
どうしてそんな・・・。


動揺を隠しきれない私をよそに、馬車の扉は閉められ、ゆっくりと動き出します。

「・・・あんな顔されたら、私・・・!」

私の脳裏には、伯爵さまのあの笑みがずっと焼き付いたまま。
馬車の揺れのように、私の心はずっと揺れ続けていたのでした。



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