溺愛伯爵さまが離してくれません!
「サイダル、我儘を言ってすまなかったね。リーナはアルフォンソ家にとって必要な侍女なんだ、辞められては困ると思ってね」

「いえ・・・しかし、見合いの途中で半ば強引に止めて、あちらにはどう謝罪すればよいか・・・」

「それに関して気にする事はない。後処理は全て私が引き受けよう」

「そ、そんな事を伯爵様に・・・」

「問題ない。そういった交渉はやりなれているからね。後は私に任せてくれないか?」

優しい口調ながらもどこか威圧の籠るその言葉に、父はただ頷くだけしか出来ませんでした。
伯爵さまは父のその頷きを確認すると、手をぱちん、と叩きこう話します。

「じゃ、この話は終わり。すまないがリーナと話がしたいんだ、一旦ふたりきりにして貰えないかな?」

そう言われ、父とリュリは足早に部屋を出ていきました。

静まり返る部屋。
扉の向こうから、父とリュリの遠ざかる足音だけが聞こえるだけでした。


部屋の中に、伯爵さまと私、ふたりだけ。
伯爵さまは、ずっと笑みを浮かべたまま私を見つめていました。
その瞳を逸らす事が出来ず、私もただぼうっと伯爵さまを見つめています。

シチュエーションは先程のグレイスと同じなのに。
先程の緊張とはまた別の緊張。

・・・でも、どこかしら安心している私がいる。


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