魔術師の瞳
「格下のクセに、しっかり挨拶しろ。序列三位。」
「良いのよ。ごめんなさいね、遷宮さん。」
「いえ、私こそ挨拶が足りませんでしたね。」
あざみの家、遷宮家は日本における西洋魔術の御三家に属する。
その御三家の中でも格付けがあり、遷宮家が序列第三位であった。先日までは。
あざみの兄がイギリスにある白壁城と呼ばれる世界最高位の権威を持つ魔術学校に入学し、その上「魔法使い」認定試験をトップで合格したことで遷宮家が二位になったのだ。
魔法使いは魔術師の上位集団で万物に干渉できる法を使える。世界にも数千人程度しかいない選ばれし魔術師なのだ。
御三家の序列は二位と三位の移動が激しく数十年に一度は変わる。今回は異例の速さで遷宮家が巻き返し、三年で二位と三位が変わることになる。
この順位は第一の家が定めるもので、正式に発表されるのは丁度12時。つまり、一分後だ。
「ご機嫌麗しゅう、一ノ瀬聖羅(イチノセ セイラ)さん。」
「ねぇ、私は参加できなかったけど中距離戦闘魔術試験優勝したんでしょ?今度一戦お願いできる?」
「ええ、もちろん。」
残り十秒、あざみは口角を上げて放送を待つ。
「笑ってどうしたの?」
「今日は記念日なんです。祝ってくださる?」
「ええ、なんの記念日?」
三回鐘が鳴り響き、校内放送が入る。
あざみ、聖羅とその取り巻きはスピーカーを見た。
「本日付で御三家の序列が変更となりました。一ノ瀬家を三位に降格、遷宮家を二位に昇格といたします。」
近衛が机を握った手で叩いた。
あざみは艶やかに笑うと、深々と礼をして一言。
「遷宮家が序列二位に戻る記念日です。さようなら。」
颯爽と去っていくあざみの背に魔術攻撃をしようとする近衛を聖羅が止める。
「なるほどね。痛い目みなきゃわからないみたい。」
怒りの滲む美しい微笑みでそう呟いた聖羅の瞳は怒りに包まれていた。