魔術師の瞳
「それは命令ですか、蒼蓮様。」
対立が軟化したといえども、依然として御三家の内の二家は式家に対し友好的な態度は示さない。
特に一ノ瀬はそれがひどく、その一ノ瀬の部下である近衛家、姫島家も主の意向に従うのみだ。
今ここで小さな揉め事に式家の頭主が介入したとなると大事になるかもしれない。それを気にするあざみに、蒼蓮はしっかりと頷いた。主の命令には逆らえない。
「さあ、行け。後は俺に任せろ。」
深々と礼をして去っていくあざみ、大きな声で呼び止めようとするがそれを蒼蓮の睨み殺すかのような鋭い眼光が止めさせた。
「ランク、EX。式蒼蓮、遷宮あざみ代理として勝負を受けよう。」
式家と御三家序列第一位の家はランク、EX(エクストラ)が与えられる。日本魔術の歴史を築いてきた二家に他の生徒と同じランクを与えるのは無礼も甚だしいという学校側の意向だ。
「し、式様。」
近衛家が式家に対し柔和でない態度を取ろうと、取らなかろうと格上の者には許しが与えられない限り敬称をつけて呼ばなければならない、それが数千年と変わらない掟なのだ。
たかだか数百年の歴史しかない近衛家は数千年と歴史を持つ式家から見れば雛鳥も同然、御三家一ノ瀬の右腕であっても式家に対し一応敬意を払わねば典型的縦社会の魔術師社会での風当たりは厳しくなるのは想像するのが容易だ。
「近衛の次期頭主、全力で来いよ。」