魔術師の瞳




『婚約者選定期間を本日から貴殿の十七の誕生日とする。
 遷宮家頭主 遷宮 染一郎』

なんともシンプルな内容だが、あざみの顔は険しかった。
遷宮染一郎(セングウ センイチロウ)は彼女の実の父であり典型的魔術師。結婚には愛よりも損得勘定と血筋を優先する男だ。無論、世間一般の父親と同等かそれ以上に娘であるあざみを愛しているがやはり魔術師なのだ。
薄々勘づいていたが婚約者選定をしなければならない。この遷宮あざみは容姿端麗、成績優秀、将来有望と三拍子揃っているが恋愛だけは苦手であった。
記憶の奥底には初恋が眠っているが、三年前なのに恋した相手の顔すら思い出せない。愛しさだけが胸に残っている。
それ故なのかは分からないが恋人なんて今までの人生で一度もいなかった。
告白は何度も受けるが断っていたのだ。


「あざみ君、君ならこの学園内だけじゃない、白壁城の人間とだって吊り合う。」


険しい顔のあざみに一尉がそんな言葉を掛けるが、封筒を机に置いて上げた顔が柔らかくなったとは言えない。


「白壁城の友人に文を書こうか?魔法使い認定を受けた友人が数人いるが、彼らの息子も丁度君と同じ年代だ。」


この一尉という男は居眠りこいてばかりだが魔術師としては白壁城に行くほど優秀で、魔術の本場英国に幾人もの知り合いがいる。
魔法使い認定を受けた人間の息子で白壁城の生徒ならば遷宮家の未来はもっと輝かしいものになるだろう。
だがあざみは顔を横に振った。


「数ヶ月は自分で探します。それでも無理だった場合には、頼らせていただきます。」


立ち上がり部屋を出ていくあざみ、その顔はかつてないほどに冷たく澄んでいた。

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