魔術師の瞳
『君は君だ。家、悲願、魔術、そんなのことよりも君がどう生きたいかが大事なんだろう。』
落ち着いた声色、何て優しく胸に染み込む声だ。
私のことを真っ直ぐ見つめてそう言っているのは思い出せるのに、顔も名前も思い出せない。
もっと近く、もっと深く。″あなた″のことを思い出すためにあざみが深い眠りに落ちようとしたところで、小枝を踏む微かな音。
人が来たようだ。
足だけを地面に降ろし、ベンチに横になっていたあざみは目を開いた。
先程燕から言われたばかりなのに気が緩みすぎている。
「警戒しないで大丈夫だよ。」
穏やかな低音、澄んだ雰囲気、端整な顔立ちに柔らかな笑みを乗せたその姿を捉えて警戒を解いたあざみ。
冬夜は手に持った二本の250ml缶ジュースを肩辺りまで持ち上げて首をかしげた。アフタヌーンティーのお誘い、だろう。