魔術師の瞳
お互いに取っての最大限の譲歩をし合った結果だ。冬夜は満足そうに笑うと、あざみに別れを告げてあっさりと去っていく。
「冬夜さん・・・。」
家族以外の異性を名前で呼んでいる、そう思うと少しだけ胸が高鳴った。
仲の良い人物が増えると言うのは思いの外嬉しく、半分以上残っているカフェラテに口をつけ一口飲む。
強い砂糖の味は、少し浮かれるあざみの舌によく馴染んだ。
少し位期待しても良いのかもしれない。
彼といると過去の記憶を総て思い出せる予感がする。そして彼ならきっとそれを総て受け入れてくれるのだ。綺麗な初恋であっても、なくても。
じりりと胸を焦がす悲しみを包み込み、忘れないように守ってくれるのだろう。時の流れと共に痛みが消えることを祈って、隣にいてくれるのだろう。
ぽっかりと空いた記憶の傷が塞がりそうだ。傷痕は形となって残るだろうが、それも良いのかもしれない。
鼻歌でも歌い出しそうな程に上機嫌なあざみはカフェラテの缶を握って立ち上がり、もっと森の奥へと歩き始めた。