魔術師の瞳
式蒼蓮という青年
森の奥には小さな塔がある。高さは15m程で、木々の間からひょこんと天辺が覗く塔は登れば森が見渡せる。こつこつとローファーと石で出来た階段がぶつかる音。
天辺であり展望台となっている場所にはどうやら先客がいたようで、転移魔術でカフェラテの缶を寮の自室に転送したあざみは眠りこけている先客にそっと近寄る。
胡座をかいて柱に凭れ眠っていると長い睫毛が目立つ。時折吹く風に僅かに靡く長髪、肩に立て掛けられ胡座をかいた足で押さえられている日本刀。まるで現代を生きる侍だ。
「蒼蓮様、寝ていると本当に女の子みたいですね。」
うっかりそう呟いてしまったが本当に寝ているらしい蒼蓮は一定のリズムで肩を上下させるだけである。
隙間を30cmほど開けてその隣の地面に静かに腰を降ろし、横顔を眺める。
あざみと同等か、それ以上に戦いを好む割りには顔が愛らしすぎる。
長い睫毛に形の良い唇、起きているときには爛々と輝く双眸も今は瞼の下。
身長は175だと聞いているが、小顔なためそこまで高いと思ったことはない。
良く良く考えるともう十年以上共に過ごしてきた。蒼蓮のいない人生よりも、いる人生の方が長いのだ。物心つく頃か共に学び、成長し、自分よりも小さかった少年は大きくなり今では日本を代表する名家を率いている。
そう思うとこの青年の肩にかかる重圧を思い知らされる。
鍛えても鍛えても屈強にはなれず、実戦向きの細くも鍛えられた身体になると悩んでいたあの頃。
もう随分と立派になったが、それでもまだ向上心はつきないらしい。