魔術師の瞳
蒼蓮は魔術師としての開花が早すぎた。名家の跡取りとして生まれ、並みの人間ならば押し潰されそうな期待に赤子ながらにその期待に応えようとしていたのかもしれない。
言葉を覚える前に簡単な魔術を数十覚えた。歩き始める頃には下級名家の出の魔術師ならば互角になっていたし、中等部に入学する時には回りに敵なしの孤高を極めていた。
あざみは式家の部下である遷宮家に生まれた同年代として学園に入る前には数ヵ月に一度。学園に入学してからは毎日傍に控えた。
才能がありすぎると人は回りに集まらない。ましてや日本を代表する名家の跡取りだ。友人なんていないに等しく、彼の唯一の友人はあざみであった。
春夏秋冬の景色を彼と眺めた。喜怒哀楽総てをぶつけ合った。
様付けで呼ぶが、それは二人の間の距離を間違えないためだった。
不可侵の約束だった。
年を重ねるごとに彼は人付き合いを覚え回りに人の集まる人格者となった。同性の友人が増え、二人きりで過ごす時間は減った。それでも特別な友人と言うのはあざみであろう。性別を超越した友情が二人の間にはある。
確かに気心の知れた人間と結婚すれば、楽かもしれない。だが、友人として彼女は蒼蓮に本当に好きな人物と結婚してほしかった。
きっと彼が同情半分で婚約を申し込んだのだと思っているのだ。
実際のところ理由は彼しか知らず、式家に情報がリークされたのは数分前だったのだが。
風が吹いて、蒼蓮の髪を結んでいた赤い紐がほどける。
宙を舞った紐はまるで運命の赤い糸。それを右手で掴んだあざみは、切な気に微笑んだ。