魔術師の瞳




それは鮮やかな身のこなしであった。
ふわりふわりとスカートの裾を揺らめかせる姿は愛らしいが、その細い足から繰り出される蹴りは人間の領域を外れている。

一度命中すればマネキンの白い体は壊れ、破片と部品が宙を舞う。
青い瞳で正確に捉えたマネキンを確実に仕留めること18体、大きさ3mはありそうな大きなマネキンがカタカタ体をならしながら現れた。

その巨体からは想像できないほどに素早い動き、振り下ろされる腕を避けたあざみは目を細める。


「Sol」


指で宙に曲線ではなく直線で構成されたアルファベットのSを描く。するとその形は光を帯び、30cm程の実体を持ち宙に現れた。
北欧の魔術師が得意とするルーン魔術だ。
意味を持つ文字を使い攻撃や守備をこなすルーン魔術は使いこなせば切り札となるが、努力よりも才能が必要とされるシビアな世界だ。

宙に浮かぶルーン文字が小さくなりあざみの手の甲に吸い込まれ、輝く刻印となる。


「燃やします。」


握り拳を構え、跳躍。炎を纏うその拳は寸分の違いなくマネキンの眉間を捉え、瞬く間に広がる崩落と炎。
白い体が砕けながら炎に包まれるのを見て、あざみはほんの一瞬出遅れた。
瞬きよりも短いその時間、刹那が命取りになるという魔術師の鉄則を忘れていたのだ。


「もらった!」


背後から聞こえてきた声に目を見開き、振り変えるあざみ。
一瞬目が合う。この瞬間、彼女を奇襲することが出来た人物は持ち得た時間という武器を自ら捨てた。
彼女の目に映るということは、即ち破壊の対象になることだと。




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