魔術師の瞳
「なるほど、姫島さんだったんですね。」
露になった顔は痛みに呻く憐れな少女で、涙に濡れる頬があざみの目から放たれる青い光を受けて輝いている。
可哀想。あざみはそう思った。
ローブに包まれた華奢な体は崩れそうなほどに震えて、制服は血塗れだ。
「どうしますか?止めを指しましょうか?それとも見逃しましょうか?」
心配するかのような声色でそう問うが、顔は笑ったまま。
くつくつと喉をならし、心底愉快そうだ。
まるで二重人格のような言動の不一致に、姫島美花は遷宮家の恐ろしさを見た。
遷宮は日本の名家、御三家の中ではもっとも血濡れた歴史を持つ家だ。
結束は固いがその分裏切りは許さない。死、あるのみだ。
戦いに特化した魔術神経を何世代に渡って築き上げ、対立する家を滅ぼし成長した家。野蛮で品の欠片もない一族の血が脈々と遷宮あざみには流れている。
遷宮家の家訓は威風堂々なのだ。己の地位を築き上げた屍を踏んでなお、それを誇るのだ。
魔術師にとって「殺し」は罪ではない。
ガタガタと震える姫島の前にしゃがみこんだあざみ。
爛々と輝く青い瞳に怯える獲物が映っている。
「ねえ、どうしてほしいですか?」
細い指がナイフの背を撫でる。
結界が少しずつ壊れ始め、穏やかな日差しが所々に差し込み始める。
後光を受けるあざみは、汚れひとつもなく。まるで、天使のようであった。