魔術師の瞳




まるで未来を見てきたかのような口ぶりだ。
訝しるような困惑するような曖昧な表情のあざみに、燕は眉間にシワを刻んだ。


「あんたが目を使って物理法則を無視したことができるみたいに、私には未来が聴こえる。」


魔術ですら未来予測は容易くない。直感を補助して未来予測に近いことはできるが、本物の未来予測は魔法使いの領域だ。
だが、固有魔術として未来予測を生まれ持ったのなら話は別だ。


「私これでもあんたを気に入っているんだ。だから、遠儀燕としてではなく未来が見える人間として警告する。」


燕が息を吸う一瞬の静寂。重苦しい雰囲気が二人の間に流れている。


「一ノ瀬聖羅を殺さないと、お前は必ず死ぬ。」


魔術師は絶対を約束する言葉を嫌う。それは魔術が不確定要素によって成り立つ未知の世界だからのであるが、四織の頭主である燕が″必ず″と言ったとなると余程の事態だ。


「分かりました。」


今日会ったばかりの他人の言葉を鵜呑みにするほどあざみは愚かではない。
だが、聖羅を殺すメリットというのも少なからず存在する。
聖羅が消えると子供のできにくい家系である一ノ瀬は直系が途絶えることになる。御家滅亡はないが、数千年ぶりに御三家入れ換えが行われるだろう。
そうなれば西洋魔術は京極と遷宮の独壇場。ライバルは少なければ少ない方が良いし、万が一戦争となっても遷宮に負ける要素はない。





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