魔術師の瞳




「女子中距離戦闘魔術試験、決勝戦!天の陣、ランクエース遷宮あざみ!地の陣、ランクジャック桐岡りいな!二分後に試合開始です!」


女性教員がそう大きな声で言えば、周りがざわめき始めた。大方勝者予測だ。
空を眺める時間は終わりを告げ、あざみはベンチから立ち上がった。

この学校には魔術師としての才能によって生徒をランク付けする伝統がある。
ランクは下から「P(ポーン)」「B(ビシップ)」「N(ナイト)」「R(ルーク)」「J(ジャック)」「Q(クイーン)」「K(キング)」「A(エース)」の計八位あり、彼女は最上位のAのランクだ。
天の陣、地の陣というのはプロレスで言う赤コーナー青コーナーのことで名称に然したる意味はない。

対戦相手は一般の家庭から生まれた魔術師として校内でも有名な桐岡りいな。一般家庭の出身は学年に数人いるが、Jを持てたのは彼女がはじめてだ。


少々粋がっていて、生粋の数十第続く魔術師の家系の生徒に対しても対等な立場であろうとする彼女の反骨精神をあざみは好ましく思ったが、最高位のAを与えられた女だ。家柄が何よりも重視される魔術師は厳格な縦社会で、Aを持つ彼女は最高位の者としての義務がある。
A等の高位生徒は何をせずとも単位が与えられ己の魔術の研究や探求に学園で過ごす時間を使うように言われる。
一定の自由には責務が付き物、彼女はAとしての仕事をしなければならない。
深く息を吸った後に髪を一つに纏め革製の黒手袋を手に通した。



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