魔術師の瞳




嫌な予感がした。数時間前に戦ったマネキンの姿が脳裏を過る。
刀李の武器は槍だが、蒼蓮との戦いで折れている。
聞くところによると刀李は武具を持った場合だとAの生徒とも互角に戦えるが、武器を持たない場合は弱い。

先程の姫島が搬送されていくときにマネキンの破片は見当たらなかった。
もし、あのマネキンが自由意思を持ち無差別に人を襲うものだとしたら?

彼女の予感と言うのは悪いものはよく当たる。
ベランダから出て、リビングの机の板の下に隠していたケースから小刀を取り出す。
もしもに備えた準備は整えた。駆け出して部屋を出る。
エレベーターは丁度聖羅が降りた後、下降するものだ。乗り込んで一階を目指す。

刀李を助けてやる義理はないが、少しばかり姫島に酷な仕打ちをしてしまった罪滅ぼしをせねばならない。それに近衛家には少しばかりの恩がある。
扉が開くともに、駆け出す。50mほど先に印象的な茶色の頭を見つけた。刀李だ。

今回ばかりは悪い予感が杞憂で終わるかもしれない。
そう安堵しかけた時だ。刀李の姿が大きく揺らいで何かに吸い込まれるようにして消えた。
結界に入ったのだ。


「加速。」


加速魔術をかけて、その背を追う。結界が特定人数しか収容しない仕組みだと、壊さなければならない。
青く光を放つ瞳で黒い闇を見つめると、綻びのような隙間。結界の入り口はまだ存在している。


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