魔術師の瞳
小刀を逆手に構えて結界の入り口を切り裂く。
黒い闇に飲み込まれたあざみ、ひんやりとした冷気が体を撫でた。
「なんなんだよ!」
中級攻撃魔術でマネキンと戦っている刀李だが、蒼蓮との一戦で満身創痍だったのだ。状況は不利としか言いようがない。
不利に拍車をかけるようにマネキンも進化を遂げている。いくつものマネキンが足りない部品を補いあってキメラのような奇妙で薄気味悪い姿になっているのだ。
腕が三本あるものや頭が二つあるもの、近年の恐怖映画よりも恐怖を誘う光景だ。
「近衛刀李、下がりなさい!」
穏やかで慎ましい態度は取っていられない。粗野な口調でそう言うと、驚きを隠せない顔の刀李が振り向いた。
助けが来たのは嬉しいが、敵対している遷宮家のそれもあざみだと素直に喜べないらしい。眉間にシワを寄せて何か言っているが、生憎小言に耳を貸す暇はない。
加速魔術はまだ効果がある。足を止めずに、走りながらマネキンを切り捨てる。
切り捨てようともカタカタと動いてまた合体し、強くなる。下手に切り刻むよりも燃やしてしまった方が楽かもしれない。
刀李の隣まで並ぶと、鉄の臭い。
目を凝らせば刀李の腹部が赤く染まっているではないか。
結界に入って直ぐ、不意を突かれたのだろう。
「負傷してるじゃないですか!」