魔術師の瞳
『君は───。───は────く。』
聞き取り辛い雑音混じりの音声は急に脳裏に響く。
エレベーターの中、神妙な面持ちで耳を傾けるが一向に理解できないのだ。
部屋に戻って風呂に入っている最中にも時折響く声。
兄の巴が高校進学を祝って職人に作らせた正絹のテーラーパジャマに着替え、髪を乾かす。
ベッドの隣に設置されている化粧台はもっぱら髪の毛を乾かすときに使用されるのみだが、兄や両親から貰った化粧品や装飾具が整理整頓され飾られている。
鏡越しに己の紫色の瞳を見つめる。
奥底に眠る残虐性には目を背けているが、そのうち隠しきれなくなってしまうのだろう。
水分をある程度飛ばすと電源を落とし、歯磨きをするために洗面台のあるバスルームへと歩く。
鏡の中では部屋中の影が蠢いていた。