魔術師の瞳
戦闘魔術は軽度なものだと身体に刻まれた刻印で呪文詠唱無しで使用することができるが、大型で魔力消費の激しい魔術だと使用するために詠唱が必要となる。
未だ離れたままだが、桐岡はあざみに拳銃の形を作った手を向ける。
人差し指の先に一瞬で光が集まり、それは眩い光の直線となり幾つにも別れて迫り来る。ほんの百分の数秒、小さな声で呟やいた。
「上がれ。」
紫色の瞳が青く光を放って、向かってくる光は直角に近い動きで遥か頭上に上がっていく。
礼装に加え、彼女には一つの固有魔術と言われる彼女固有の魔術が備わっている。これは名家の本筋に名を列ねる者なら時折持つ物で、固有魔術の発動はその人の身体が特殊礼装となる。特殊礼装は魔術と外界を結ぶ接点であり、武具に等しい。
彼女の場合、目が特殊礼装で固有魔術は空間作用。両目で捉えたものに干渉し、操作することが可能だ。
「遷宮家次期頭主補佐、遷宮あざみ。参ります。」
彼女の足に緑色の光を放つ直線で構成される幾何学的模様が浮かび上がり、力を込めて地面を蹴ると30mを超す距離を一瞬で移動する。
「加速。」
桐岡の数m手前で一度着地し、そのまま長い脚を活かした鋭い蹴りを繰り出す。幾何学的模様が赤に染まり、風を切るような速さにまで蹴りが加速された。
「っ!?硬化!!」
突然距離を縮め攻撃を繰り出してきたあざみを目にし驚愕で目を見開いた桐岡だが蹴りの当たる寸前で身体強化魔術をかけどうにか防御しようとする。
ガキンッ!!と金属同士が強くぶつかる音の後に呻き声。
脇腹を押さえ後ろに跳躍した桐岡を見てあざみは目を細めた。
「見えるんですね。」
背筋を正し桐岡を正面に捉えると、紫に戻っていた瞳がまた光を放つ。