魔術師の瞳
「御三家が一つ、遷宮家次期頭主補佐遷宮あざみ。推して参る。」
清澄な闘志が立っているだけで伝わってくるほどに、あざみは戦いを好む。
普段の穏やかで柔和な微笑みを彼方へ消し去り、一寸の隙もない表情。
桐岡は唾を飲んだ。痛みを訴える脇腹はしばらくの間全力を出せないことを示す。
一学年首席にしてAを手に入れた猛者はこの学年に8人いる。その中でも異質なのが遷宮あざみなのだ。
見た目に反して苛烈な戦い方をする少女は美しくも恐怖を感じざるを得ない。
目の前にいたあざみが消えた。
次の瞬間には鳩尾に重い一撃が叩き込まれた。腹部が圧迫され胃が内容物を押し上げ、数秒後。二発目を構えていたあざみが手を止めた。
桐岡が膝から地面に崩れ落ち、手をついて四つん這いになり嘔吐したのだ。
「試合そこまで!桐岡りいな戦闘不能、勝者遷宮あざみ!保健委員は直ちに桐岡さんを保健室へ!」
結界が解除され教員と保健委員と書かれた腕章をつけた二人の少女が駆けてくる。
纏めていた髪をほどき、手袋をポケットにしまう。
瞳は紫に戻り、穏やかな雰囲気が戻る。
駆け寄ってきたクラスメイトに穏やかな笑顔を向けるその姿は可憐な少女であった。