眩暈
彼がセルビア語でそう言うと、チキータと呼ばれた犬は素早く彼の隣にやって来て、私たちを上目遣いで見た。首輪の鈴の音が耳に響いた。
「よく躾されているのね!」
私は涙も忘れて、感心して言った。
「彼女はとても賢いんだ」
彼はその雌犬の体を愛おしそうに撫でながら、もう一度私の目を覗き込んだ。私は少し気まずさを感じながら、言った。
「ルカ、何も悲しいことなんてないのよ、本当よ」
「わかったよ、君を信じるよ」
彼はそう言って、私の背中を撫でた。どこからかともなく拍手が聞えてくる。そしてクラシックギターのサウンドと女性のハスキーな歌声。
「あぁ、始まった。今日は中庭でコンサートやってるんじゃないかな。君も行ってみたらいいよ」
と彼は当然のことのように言った。
「私が行ってもいいの?」
私が尋ねると、彼は目を丸めて、なぜだめなの!?と返した。
「これがベルリンさ」
私はとても興奮していた。音楽は、ここからでも聞える。その音を奏でる人の思いは、ここまで届いている。私は窓の横で耳を澄ませた。夜は少し、肌寒かった。ポップなロックンロールが聞えて来て、その瞬間、私はベルリンに強烈に恋に落ちた。犬の糞で溢れかえる、決して美しいとは言えないこの街に。
ルカは冷蔵庫からベルリーナーを二本取り出した。彼はライターで器用に栓を抜き、私にそれを渡す。私はDankeとここぞとばかりにドイツ語を使ってみる。それを受け取った瞬間に、その中から泡が噴出して、私たちは慌てた。ルカはSchi?e!(ドイツ語で“クソ”の意)と口走る。この時、私はこの国で一番有効な言葉を学んだ。そして、目が合った瞬間に笑った。その時私たちはまだ酔っていなかったというのに、いつまでもくすくすと笑っていた。
「ベルリーナーは貧乏人には持って来いのビールさ。俺、今ジョブレスだから!」
彼は、言った。
「本当にそうね。だって私もジョブレスだから!」
私はおどけた調子で言った。同じ屋根の下にジョブレスが二人。その響きはとても救いようがない。彼が私の目を見て、Prostと言った。お互いの目を見て、乾杯するドイツのやり方で。私は栗色の瞳を見つめた。
「何に乾杯する?」
私はボトルを掲げながら、彼に聞いた。彼は私の意図を理解したように、
「二人のろくでなしに!」
と言った。チンという鈍い音が響いた。私の愛すべき日々が始まった音だった。
「よく躾されているのね!」
私は涙も忘れて、感心して言った。
「彼女はとても賢いんだ」
彼はその雌犬の体を愛おしそうに撫でながら、もう一度私の目を覗き込んだ。私は少し気まずさを感じながら、言った。
「ルカ、何も悲しいことなんてないのよ、本当よ」
「わかったよ、君を信じるよ」
彼はそう言って、私の背中を撫でた。どこからかともなく拍手が聞えてくる。そしてクラシックギターのサウンドと女性のハスキーな歌声。
「あぁ、始まった。今日は中庭でコンサートやってるんじゃないかな。君も行ってみたらいいよ」
と彼は当然のことのように言った。
「私が行ってもいいの?」
私が尋ねると、彼は目を丸めて、なぜだめなの!?と返した。
「これがベルリンさ」
私はとても興奮していた。音楽は、ここからでも聞える。その音を奏でる人の思いは、ここまで届いている。私は窓の横で耳を澄ませた。夜は少し、肌寒かった。ポップなロックンロールが聞えて来て、その瞬間、私はベルリンに強烈に恋に落ちた。犬の糞で溢れかえる、決して美しいとは言えないこの街に。
ルカは冷蔵庫からベルリーナーを二本取り出した。彼はライターで器用に栓を抜き、私にそれを渡す。私はDankeとここぞとばかりにドイツ語を使ってみる。それを受け取った瞬間に、その中から泡が噴出して、私たちは慌てた。ルカはSchi?e!(ドイツ語で“クソ”の意)と口走る。この時、私はこの国で一番有効な言葉を学んだ。そして、目が合った瞬間に笑った。その時私たちはまだ酔っていなかったというのに、いつまでもくすくすと笑っていた。
「ベルリーナーは貧乏人には持って来いのビールさ。俺、今ジョブレスだから!」
彼は、言った。
「本当にそうね。だって私もジョブレスだから!」
私はおどけた調子で言った。同じ屋根の下にジョブレスが二人。その響きはとても救いようがない。彼が私の目を見て、Prostと言った。お互いの目を見て、乾杯するドイツのやり方で。私は栗色の瞳を見つめた。
「何に乾杯する?」
私はボトルを掲げながら、彼に聞いた。彼は私の意図を理解したように、
「二人のろくでなしに!」
と言った。チンという鈍い音が響いた。私の愛すべき日々が始まった音だった。