眩暈
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 一緒に住み始めると、彼には特定のガールフレンドはいないことはすぐにわかった。私たちの共同のスペースには私以外の女性の持ち物は何もなかったし、寝ている女の子は何人もいるようだったけれど、その間柄には何も真剣なものはないように思えた。朝方、彼を残して彼女たちは足早に帰っていく。一緒にコーヒーを飲むこともなければ、一緒に朝食を摂ることもなかった。何人もの女友達を紹介された。その中にはタチアナのように、間違いなく寝たことのある女友達もいるように見えたけれど、彼は人前で彼女たちが自分の体にべたべたと触れることを拒んだ。タチアナでさえ、人前ではルカに触れなかった。彼らの間には何もないかのように振舞った。それは彼らの合意事項だったのだと思う。そしてルカにとっては、自分は誰にも属すつもりはないという意思表示のように思えた。私は、彼のその態度をいつも不思議な気持ちで眺めたものだった。彼はいつも、誰に対してもフレンドリーでオープンマインドに接していたから。だけどその一方で、彼の扉は決して開かれないこともなんとなく理解した。いつもどこかで、他人との距離を感じた。それは、もちろん私に対しても。彼の横にはいつもチキータと呼ばれる犬がいて、その雌犬こそ、彼が唯一この世で愛するものだった。その他は、何も。愛するものも、執着するものも。彼はチキータの体を大事そうに撫でながら、時々セルビア語で彼女に話しかけた。私にはまったく理解出来ない言葉だった。私はその雌犬を見た。つり目気味の目が、彼女を気位の高い女性のように見せていた。それとは反対に、垂れ下がった乳は私をとてもやるせない気持ちにさせた。
「十年前、ストリートで彼女を拾ったんだ。まだ彼女は小さくて、やせっぽちで、いつも食べ物を探していた」
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