眩暈
と少しさみしそうに言った。そしてユーゴスラヴィアの国歌なら歌えるけど、と付け加えた。醜い内戦の後、ユーゴスラヴィアが最終的に解体された時、彼はもうそこにはいなかった。でもきっとベルリンから、そのニュースを見ていた。それは一体どんな気持ちだったのだろう。自分の生まれた国が無くなるとは、一体どういう気持ちなのだろう。彼から“ユーゴスラヴィア”の名前を聞く時、私の体の中がいつもざわついた。消滅してしまった国へのノスタルジーのようなものかもしれないし、あまりにも残酷なことがその国で起こったことに対する同情なのかもしれないし、ただ単に、私の目の前にいる男の生まれた国への愛情と呼べるものかもしれなかった。あの戦争について、彼は自分から語ろうともしなかったし、私も聞きはしなかった。まだ美しかった頃のその国を、私は聞いていただけだ。美しい花々、それから家畜の匂い。人々はお互いを労わって、ファミリーのように暮らしていた頃の話を。まるで、その話だけを覚えておいて、とでも言うように。
「ベオグラードもここみたいに大きな川が流れている」
太陽の光が少しだけ現れて、シュプレー川の水面に反射した。彼は目を細めた。私より明るい色の瞳には眩しいのだろう。
「セルビアが恋しい?」
「時々ね」
彼は眉毛を互い違いにして、小さく笑った。
「帰りたいと思う?」
私が聞くと、その質問に対しては首を横に振った。
「帰るところ、ないんだ」
そう、と私は短く言った後、私たちは長いこと会話もせずに黙っていた。その沈黙は、決して不快ではなかった。寝転んで、灰色の空を見ていた。私たちの間にはチキータが寝そべっていた。
「ところでどんな小説を書いているの?」
彼は上半身を起こして、聞いた。小説なんて、まったく読んだことないけど、と付け加えて。彼は真剣に煙草を巻いていた。せっかく買ったマリワナが風で飛ばされてしまわないように細心の注意を払いながら。私の小説の内容よりも、そちらが重要だと言わんばかりに。
「えっと」
私は一瞬口ごもった。自分で何を書いているのか、自分でもよくわからなかった。そしてそれがいつまでも私が一つの小説も書き上げることが出来ない理由だということもわかっていた。
「たぶん、愛についてだと思うわ」
彼はそれ以上、私の未完成の小説について尋ねようとはしなかった。ただ煙草を吸っていた。
「今までで」
「ベオグラードもここみたいに大きな川が流れている」
太陽の光が少しだけ現れて、シュプレー川の水面に反射した。彼は目を細めた。私より明るい色の瞳には眩しいのだろう。
「セルビアが恋しい?」
「時々ね」
彼は眉毛を互い違いにして、小さく笑った。
「帰りたいと思う?」
私が聞くと、その質問に対しては首を横に振った。
「帰るところ、ないんだ」
そう、と私は短く言った後、私たちは長いこと会話もせずに黙っていた。その沈黙は、決して不快ではなかった。寝転んで、灰色の空を見ていた。私たちの間にはチキータが寝そべっていた。
「ところでどんな小説を書いているの?」
彼は上半身を起こして、聞いた。小説なんて、まったく読んだことないけど、と付け加えて。彼は真剣に煙草を巻いていた。せっかく買ったマリワナが風で飛ばされてしまわないように細心の注意を払いながら。私の小説の内容よりも、そちらが重要だと言わんばかりに。
「えっと」
私は一瞬口ごもった。自分で何を書いているのか、自分でもよくわからなかった。そしてそれがいつまでも私が一つの小説も書き上げることが出来ない理由だということもわかっていた。
「たぶん、愛についてだと思うわ」
彼はそれ以上、私の未完成の小説について尋ねようとはしなかった。ただ煙草を吸っていた。
「今までで」