眩暈
その冬の始まりは、私はひたすらに小説を書いていた。ベルリンの冬はものすごい速さでやって来る。空から光を奪い、街は灰色で覆われる。ルカは不定期だったけれど仕事を見つけ、朝方五時頃から出かけることもあれば、夕方から仕事に出かけることもあった。私が彼の仕事について聞く度に、まったく違う職種が出てくるので、私の頭は混乱し、結局仕事なのかわからないままだった。私は彼が何の仕事をしていようが興味はなかったので、それ以上尋ねることはなかった。
彼が仕事を始めると、私たちは以前のように二人でいることはなくなった。私はラマや彼女の友達と出かけることが多くなった。彼女の友達もまたクレイジーな人たちばかりで、私は彼らを気に入っていた。ルカが誘ってくれても、私は断ることが増えた。彼はただ、友達が出来てよかったねと言って私の肩を叩いた。
夏場は常に遊びに出かけていたルカも、冬場は家に閉じこもりがちになっていった。だけど、私は知っていた。煙草の量が増えたこと、それからその煙草にはいつもマリワナが含まれていたこと。そして、時にはもっとヘヴィなものに手を出すようになっていたこと。家にも相変わらずいろんな人が来ていた。タチアナとも、何度か会った。相変わらず彼女は私に冷たかった。だけど家に来ている人たちの層が前とは少しずつ変化していることにも、私は気がついていた。私が彼らに挨拶をしても、無視するばかりか、アジア人の私に対する蔑称を平気で口にした。冗談だよ、と彼らは言ったけれど、そのどれもが笑えない冗談だった。ルカは彼らをたしなめるようなことは口にしなかった。ここは彼の家なのに、部屋の隅っこにうずくまって、煙草を吸っていた。焦点の合わない目で、ぼんやりと空を見ていた。私はただ、部屋の扉を閉めた。私の祖母からもらった大切なネックレスをバスルームに置いていたばっかりに、私は一生そのネックレスを失うことになった。ストックしておいたワインも勝手に開けられていて、残りはグラス一杯もない状態で私のところへ返されることも多々あった。彼らが帰った後はバスルームも滅茶苦茶にされていた。汚れきったバスルームをクリーンアップするのは私だった。何かが、変わり始めていた。私は度々そう思ったが、私はただぼんやりとそれらを眺めていただけだった。私はただの同居人。その考えが私から去ることはなかった。
彼が仕事を始めると、私たちは以前のように二人でいることはなくなった。私はラマや彼女の友達と出かけることが多くなった。彼女の友達もまたクレイジーな人たちばかりで、私は彼らを気に入っていた。ルカが誘ってくれても、私は断ることが増えた。彼はただ、友達が出来てよかったねと言って私の肩を叩いた。
夏場は常に遊びに出かけていたルカも、冬場は家に閉じこもりがちになっていった。だけど、私は知っていた。煙草の量が増えたこと、それからその煙草にはいつもマリワナが含まれていたこと。そして、時にはもっとヘヴィなものに手を出すようになっていたこと。家にも相変わらずいろんな人が来ていた。タチアナとも、何度か会った。相変わらず彼女は私に冷たかった。だけど家に来ている人たちの層が前とは少しずつ変化していることにも、私は気がついていた。私が彼らに挨拶をしても、無視するばかりか、アジア人の私に対する蔑称を平気で口にした。冗談だよ、と彼らは言ったけれど、そのどれもが笑えない冗談だった。ルカは彼らをたしなめるようなことは口にしなかった。ここは彼の家なのに、部屋の隅っこにうずくまって、煙草を吸っていた。焦点の合わない目で、ぼんやりと空を見ていた。私はただ、部屋の扉を閉めた。私の祖母からもらった大切なネックレスをバスルームに置いていたばっかりに、私は一生そのネックレスを失うことになった。ストックしておいたワインも勝手に開けられていて、残りはグラス一杯もない状態で私のところへ返されることも多々あった。彼らが帰った後はバスルームも滅茶苦茶にされていた。汚れきったバスルームをクリーンアップするのは私だった。何かが、変わり始めていた。私は度々そう思ったが、私はただぼんやりとそれらを眺めていただけだった。私はただの同居人。その考えが私から去ることはなかった。