眩暈
家の中は暖かく、“恋人たちの家”という感じだった。二人で撮った写真や、二人で選んだ食器や家具、そのどれもがとてもラブリーで、私の心を切なくした。私たちの家にはそんなものは何もない。二人で選んだものなど、何も。私がミルクを飲んでいる時、彼らは私の向かいに座って、手を繋いでいた。私は自分がなんだか見捨てられた子供のように感じた。
「何時にルカは帰ってくるの?電話はしたの?」
英語が苦手なパウロに代わって、生粋のベルリーナーのアナが捲くし立てるように聞いた。
「えっと、その」
私が言いよどんでいると、パウロがアナをポルトガル語でなだめた。彼らは私の次の言葉を待ったけれど、私が何も答えないところを見て、何か察したようだった。もしくは最近のルカについて、彼らも思うところがあったのだろうか。そうだといいと私は思った。彼の良き友人である彼らが、彼の今の状況を良くしてくれることを祈った。私はなんだか落ち着かない気分で、煙草を吸っても気にしないかと尋ねた。アナは微笑して、ごめんなさい、と答えた。
「私、妊娠しているの」
まだお腹はまったく目立たなかった。私は自分の無礼を謝罪し、それから彼女の頬にキスをして、ハグをした。
「おめでとう!」
それから私は二人を同時に抱きしめた。
「ありがとう、ヨーコ」
パウロとアナはきらきらと輝いていて、とても幸せそうに見えた。私はこの二人の未来が明るいものであるように祈った。
「四月に出産予定なの。その時まだベルリンにいるわよね?」
アナは聞いた。私は、肩をすくめた。わからない、一言言った。彼らは少し残念な顔をした。
「でもベイビーが生まれたら、必ず連絡してね」
私はそう言った。二人の子供はとてもかわいいだろう。ベイビーの明るいニュースが私の心を励ましてくれたので、私は家に帰る心の準備をした。わざわざ自分の家に帰る心の準備をしている自分をどこかおかしく感じながら。
「幸せを、ありがとう」
私はそう言って、彼らの家を後にした。彼らの子供が誕生する頃、私は一体どこにいるだろうか。それさえも想像できなかったけれど。

家に帰ると、ルカはいなかった。チキータだけが私を迎えてくれた。私は彼女にそっと触れた。毛は短く、柔らかくなどなかった。動物を触ったことがなかったので、犬の毛がどんなものかあまり知らなかったけれど、なんとなく勝手に柔らかいものだと思っていた。
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