眩暈
「今日、彼から二度と会わないって言われたわ。そんなのってないわ。私を置いてどっかに行っちゃった。行かないで、って言ったのに」
彼女はそう言ってまた泣いた。私はうんざりした。あなたこそ、ラッキーだわ。少なくとも彼に“行かないで”なんて言葉を口に出来て。私は思った。
「泣くなら、彼の前で泣きなさいよ」
私は言った。私は彼女が泣いてもどうすることも出来ない。彼女は返事をしなかった。彼女はルカの前で泣いたのだろか。このプライドの高い彼女が。私はクリネックスを差し出した。
「泣き終わったら、さっさと出て行ってね。あんたのくそみたいな顔なんて二度と見たくないから」
私の口からはFワードがきれいに発音されていた。ルカはきっとブラボーと言って手を叩いてくれるだろう。タチアナはクリネックスと私の手を払いのけた。私は彼女を見ずに、自分の部屋の扉を閉めた。ビッチと罵る声が聞えたが、どうでもよかった。ビッチにビッチと呼ばれるなんてむしろ光栄だわ。私は思った。ミスターブッダ、ごめんなさい。私はあなたのようにはなれそうもない。チキータが鳴いた気がして、私は扉を開けた。そこには尻尾を垂れたチキータが私を見ていた。
「your manはどこにいったの?」
私はその雌犬を愛しいと思った。私はその日、初めて彼女と一緒に眠った。彼女の体は少し臭ったが、ルカがいつもこうやって寝ていると思うと眠れた。タチアナがいつ帰ったのか知らない。もう二度と会うことはないだろう。でも本当は、私は彼女の悲しさがよくわかった。私たちは愛されない女たちだった。彼を深く想っていながら。

朝が来て、いつもより早く目が覚めるとルカは自分のベッドで寝ていた。チキータはいつの間にかルカのベッドで眠りに就いていた。うつ伏せで寝ている彼の唇の端には古い血がこびりついていた。喧嘩でもしたのだろうか。そんなの、あなたには似合わないわ。私は彼の柔らかな髪にそっと触れ、彼の寝顔をいつまでも見ていた。







































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