眩暈
ベルリンの冬は、容赦なく人々から光を奪って行った。この灰色の街で暮らすことがいかにつらいものか少しずつわかってきた。ルカはまた仕事を探しているようで、いつもいらいらしているようだった。私がキッチンにコーヒーを淹れに行くと、彼はいつもパソコンを覗きながら、汚い言葉を口にした。
「ベルリンなんて嫌いだ、ドイツなんかくそだ」
彼はよく言っていた。私はその度にどうしていいのかわからなかった。陰気なベルリンの冬が彼を蝕み始めていた。彼の人生は私の目にも見える程、うまく行っていなかった。
「もう十分だ!もう違う国に行く時だ」
彼はその頃、よくボリビアだとか、南米の国を口にしていた。彼は希望に満ちていて、彼の話を聞く私でさえも、南米がものすごく天国のようなところに思えた。だけどその瞳は濁っていて、ぼんやりとしていた。私には、彼と同じ幻覚は見えなかった。
「そんな風に言わないで。私はベルリンが好きよ」
私は少しさみしい気持ちで言った。ルカはその言葉に鼻白んだような顔をした。私はそれを見てまた少し悲しくなった。

「今、何しているの、ダーリン?」
ラマからの電話はなんだか救いの電話のように思えた。書かなくてはいけない小説が書けなくて、私は自分に失望していた。
「絶望していたところよ」
私がそう言うと、なんて文学的なの!と言って、彼女は笑った。
「あなたにはリフレッシュが必要だわ」
彼女は今夜飲みに行くための場所を一方的に告げた。
「一日中家で小説を書いて、同居人に恋しているなんて、少し視野が狭くなりすぎているわよ、ベイビー。あなたは私たちと出かけることが必要だわ。そしてそれは今夜よ」
「そうね、わかったわ。もちろん行くわ。いつも気遣ってくれてありがとう、ハニー。また後でね」
ファンキーにドレスアップしてくるのよ、そう言って電話は切られた。私はこの美しい黒い肌のパリジェンヌが大好きだと思う。そうね、ラマ。あなたの言う通りだわ。こんなベルリンの片隅の部屋で埋もれているだけが、私の人生じゃないもの。
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