眩暈
「あなたの音楽のセンス、好きよ。とても素敵だったわ」
私は言った。彼は笑った後、サンキューと言った。アメリカ人みたいな“テンキュー”という発音ではなく。
 私たちは踊ることを止めて、カウチに座って音楽の話をした。どのバンドが今クールだとか、あのアルバムはもう聞いた?あれは傑作だね、だとか、ベルリンではどのライブハウスがホットだとか、そういうロックンロールの話を。
 気がつけば、うちには誰もいなかった。ラマでさえも、いなかった。もしかしたら、誰かと抜け出したのかもしれなかったので、電話はしなかった。時計を見ると、朝の五時近かった。
「Berghainって言うクラブに行ったんじゃないかな。そこなら月曜の昼まで開いているから」
彼は言った。
「月曜のお昼まで!?本当にクレイジーね」
私は目を丸くした。彼は皮肉っぽく笑った。
「それがベルリンさ」
私たちはラマたちを追わず、帰路についた。六時近くになっていたが、夜はまだまだ明ける様子はなかった。私たちは凍えながら、メトロまで歩いた。
「またあなたに会えますか?」
駅で別れる時、彼は尋ねた。この人、なんて丁寧な言い回しをするのかしら、と私は思った。もちろんと答え、彼にハグをした。彼は私を抱き締めた。
「またすぐにね、アンディ」
「うん、またすぐにね、ヨーコ」
私たちはそう言って手を振った後、歩き出した。私が振り返って彼を見ると、彼も振り返って私を見ていた。お互いがお互いの行動を予測していなかった様子で、目が合うと二人とも驚いたが、その後に照れながら笑った。そして手を振って別れた。
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