眩暈
私とアンディはそれから頻繁に会うようになった。夜な夜なベルリンのどこかで開かれるパーティーの一つで偶然出会って会話を交わし、また会う約束をして、映画を観に行って、その感想を言い合ったり、カフェでどうでもいいことを延々と話したり、蚤の市で古いレコードを選んだり、それを二人で聴いたり、私たちはそうやって始まった。多くの恋人たちがそうやって始まるように。彼は不特定多数の女の子と遊び回るようなことはしなかったし、いつも私を思ってくれるのがわかった。私たちは少しずつお互いを理解して、少しずつ恋に落ちて、ある日私は彼に属した。そして彼も私に属した。朝起きた時、自分の隣に他人が寝ていることはなんと幸せなことだろう。目を開けると、アンディの寝顔が私のすぐ側にあって、私はその寝顔を見ながら彼にぴったりと寄り添う。彼は私の冷たい体に不平を言いながら、私をしっかりと抱き締める。その間に隙間なんてないように。彼はいつも触れることの出来る距離にいた。私はそれを愛した。
 私たちが幸せな恋人同士になったことをラマが知ると、彼女はとても嬉しそうに私たちにキスの雨を降らせた。こうなること、わかっていたわ!そう言って。 
ルカと暮らす家に、私はアンディを連れては行かなかった。ルカとアンディが“やぁ、始めまして。調子はどうだい?”なんて言って、握手をする様子なんて私には想像もつかなかった。私はアンディにルカの話など一つもしなかった。アンディにとって、ルカはガールフレンドの同居人、それ以上のことではなかった。彼はルカの名前さえも知らなかった。
アンディと過ごす時間が増えるに連れて、私は家の中でルカを見ると、何か昔の男を見ているような、そんな不思議な感覚に捕らわれるようにさえなった。ルカとの日々が急速に色褪せて行った。なんだかもうとても昔のことのようだった。私はここに、そしてルカは私のすぐそこにいたと言うのに。ルカは最初、そんな風に浮き足立った私を、それからよそよそしく振舞う私を、不思議そうに見ていた。そしてある日、気が付いたのだと思う。私がもう彼から離れてしまったことに。一度も彼に属したこともなかったというのに、おかしな話だった。

「最近、君は幸せそうにしているね」
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