眩暈
 家に戻ると、パーティーはもう始まっていた。いつの間にかたくさんのワインやらビールやらが持ち込まれていた。そこには私がベルリンに来てすぐに出会った人たちが揃っていた。パウロは後から参加した。今、私はこうやって彼らに会っているのに、その側から過去になっていく気がして、泣き出しそうになった。パウロが来ると、酔っ払った私たちはパウロとアナのベイビーに何度も何度も乾杯した。パウロはとても幸せそうに祝杯を受けて、ブラジルの音楽に合わせて踊った。音楽が部屋中に響いた。隣のおじさんは留守なのか、扉は誰にもノックされなかった。パウロが言った。
「ダミアンにも、乾杯!」
皆がグラスやらボトルを上げて乾杯する中、私だけが乗り遅れた。なぜ、ダミアンに乾杯するのかわからなかったのだ。
「え?ヨーコ、知らないの?」
パウロは心底驚いたように私を見た。ルカは何も言葉を発さなかった。
「タヒチに行くんだ」
ダミアンが言った。私は横目で一瞬、ルカを見た。ダミアンが去ってしまうと、ルカはまた一人になってしまう。一瞬その考えが私のところにやってきて、私を笑わせた。彼にはたくさんの友達がいる。そんなこと、わかっているはずなのに。
「ヴァカンス・・・じゃないのよね、ダミアン?」
「タヒチで仕事が見つかったんだ。何の仕事だと思う?」
私はタヒチにヴァカンス以外で行く理由が見つけられなかったので、首を横に振った。
「わからないわ」
「ジャーナリスト!」
嬉しそうに笑うダミアンの横で煙草に火を付けるルカは、寂しそうに笑っていた。きっと誰も気がついていなかった。私もそれに気がつかないふりをした。
「素晴らしいわ、ダミアン!おめでとう!」
私はそう言うと、ダミアンの頬にキスをした。ダミアンはMerciと言って、私を抱きしめた。
「いつ発つの?」
「 一週間後、ベルリンを経つ。それから一週間パリに戻るよ。友達やら家族と会いたいからね。そしてその後タヒチだ!」
興奮した様子で彼はそう言って、私にウインクした。一週間後。私もその頃にはルカの元を去るだろう。
「本当に嬉しいわ、ダミアン。本当よ」
ダミアンはPUEBLOから煙草の葉っぱを取り出して、紙に巻いた。
「楽しみ?」
私は聞いた。
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