眩暈
何度か呼び鈴を鳴らし、半ば諦めた頃、無言で施錠が解除された。私は少し不信に思いながらも、慌てて中に入った。そして、扉を開けた瞬間に、私の新たな戦いが始まった。私の新しい家は欧州で言うところの三階。日本で言う四階なのだ。そしてもちろん、ベルリンの古いアパートメントにエレベーターなど存在しない。あぁ神様!神様なんて信じていないくせに、こんな小さなことで、私は神に救いを乞う。こんなことでは大事な時に、彼は私の願いなど聞いてくれないだろう。もし彼がいれば、の話だけれど。私はルカが下まで降りて来て、私のスーツケースを持ってくれることを期待したけれど、それが叶えられることはなかった。深呼吸を一つして覚悟を決めて、重いスーツケースを抱えた。重くて、当然だった。そこには私の人生のすべてが詰め込まれていたから。私はお金ももちろんなかったけれど、日本に置いて来るものも何もなかった。この中に入っているものが私のすべてだった。ハイヒール、口紅、お気に入りのドレスたち、それから香水。その他には絶望ばかりを詰め込んで。もっとも、ハイヒールもきれいなドレスも、このファンキーな街からは求められてはいなかったけれど。
何度もスーツケースを突き落としたい衝動に駆られたけれど、私はやっと“Stevanovi?”と書かれた表札の扉の前にやって来た。そして呼び鈴を鳴らした。それでも、ルカは姿を現してはくれなかった。数分経って、やっと扉が開いた時、現れたのはルカではなく、見知らぬ女性だった。私はあの栗色の瞳を想像していたので、下着姿の黒髪の碧眼の女が現れた時、一瞬ひるんだ。女性が一緒に住んでいるなんて、聞いていなかった。私は一瞬がっかりした気持ちになったけれど、気を取り直して、出来る限りの力で、愛想よく自分の名前を紹介した。彼女は、一応握手はしてくれたものの、無愛想にドイツ語で何か言って、扉の奥へと消えた。これから彼女とうまくやっていけるかしら。私はすぐに不安に駆られた。
何度もスーツケースを突き落としたい衝動に駆られたけれど、私はやっと“Stevanovi?”と書かれた表札の扉の前にやって来た。そして呼び鈴を鳴らした。それでも、ルカは姿を現してはくれなかった。数分経って、やっと扉が開いた時、現れたのはルカではなく、見知らぬ女性だった。私はあの栗色の瞳を想像していたので、下着姿の黒髪の碧眼の女が現れた時、一瞬ひるんだ。女性が一緒に住んでいるなんて、聞いていなかった。私は一瞬がっかりした気持ちになったけれど、気を取り直して、出来る限りの力で、愛想よく自分の名前を紹介した。彼女は、一応握手はしてくれたものの、無愛想にドイツ語で何か言って、扉の奥へと消えた。これから彼女とうまくやっていけるかしら。私はすぐに不安に駆られた。