強引でもいい、私を奪って。【SPシリーズ大西編】
備え付けの小さな流しで器用にリンゴを剥き、小さなテーブルに出してくれた。
「……ほんと器用だよね」
リンゴ、可愛いウサギになってるし。
「なんでも慣れだよ」
手招きされ、テーブルの前に座る。リンゴを齧ると、優しい甘みと少しの酸味が口に広がった。季節外れのもののわりには美味しい。
「もしかして、子供の頃から料理してた?」
「まあね」
悠は詳しくは語らないけれど、きっとご両親が蒸発してから、ずっと苦労してきたんだろう。
お母さんに甘えて、お母さんが亡くなったら次はお父さんに甘えて……私とは大違い。
「私も、料理覚えなきゃ」
ぽろっとこぼすと、悠は向かいに座って、私の顔をのぞきこむ。
その視線に気づいて、ハッとした。
彼の目から、いつもの笑みが消えていた。
「それって、あいつと結婚するから?」
「えっ?」
「諦めて結婚する気になったの?」
ええと……つまり、篤志さんと結婚するから、料理を覚えなきゃならないと……私がそう思っていると、悠は勘違いしているのかな。