強引でもいい、私を奪って。【SPシリーズ大西編】
「先生、おはようございます」
「おはようございまーす」
「おはよう」
声をかけてくれた生徒に挨拶を返す。
自宅から15分ほど歩いたところで、職場が見えてきた。
古ぼけた、何の変哲もない校舎。
こののんびりした公立中学校が、私の職場。私はここで教師として、生徒に美術を教えている。担任はまだ持っていない。
「おはようございます」
職員室に入ると、たいていの先生が挨拶を返してくれる。
けれど、向かいの席の国語の奥田先生は、メガネをかけた目でこちらをじろりとにらんだだけだった。
ひどいくせ毛で、流行おくれのメガネをかけた中年の女性だ。
「藤沢先生」
「はい?」
挨拶はしなかったくせに、いきなり人を名指しする奥田先生。
「あまり派手な装飾品は、家に置いてきた方が良いのでは? 生徒に示しがつきませんよ」
装飾品? 自分の格好を改めて見る。
生徒が羨ましがらないよう、ピアスも開けていないし、パーティーでしていたネックレスは、バッグの中。
心当たりが見つからず、奥田先生の方を見ると、彼女の視線は私の手に注がれているようだった。
ああ、これか。婚約指輪だ。外すのを忘れてきちゃった。むしろ、もらったことすら忘れてた。