強引でもいい、私を奪って。【SPシリーズ大西編】
目の前には、見慣れたはずの悠の顔。
けれどその表情は、まったく見たことのないものだった。
ふざけて笑う悠でもなく、凶暴な狼の悠でもない。
ただ私を愛しそうに見つめる、ひとりの男性がそこにいた。
「覚えてる? お前は俺の体の傷を見て、何て言ったか」
あれは、ホテルで着替えをしていた悠の体の傷を初めて見た時。
「たしか、『痛かったでしょう?』って」
答えると、悠は微笑み、私の頬をなでる。
「そう。お前は、そう言ってくれたんだ」
そう言う悠の全身には、やはり大小さまざまな傷が。
「子供の頃から、周りは俺のことを見て見ぬふりしてた。同情して、俺の不幸に巻き込まれるのが嫌だったんだろう。冬に半袖を着ていても、ペンケースがボロボロでも、誰もツッコんでくれなかった」