強引でもいい、私を奪って。【SPシリーズ大西編】
「そう。やっぱりお母さんに一度挨拶しておかないとと思ってさ」
悠はそう言いながら、次に乗せてくれる車を探している。
ちょっと待って。どうして話していない実家の場所を知っているの。
「母、とっくに亡くなってるってば」
「知ってるよ」
「実家なんて、もうないよ。おばあちゃんが持ってた実家は、上京するときに売ってしまったもの」
住む人のない家を残しておくのは嫌だったし、私も待つ人のない実家に帰る気なんてもうなかったから。
「それも知ってる」
悠はあっさりうなずく。
なんで知ってるのよ。そんな話、したことないのに。
私の個人情報を調べたのね? 問い詰めようとしたとき、悠が先に口を開く。
「それでも、霧子が育った街を見てみたかったんだ」
「どうしてよ」
「好きだからかな」
ぽかんと口を開けるしかなかった。
そんなマヌケな私の前に、一台のワゴン車が止まった。
「すみませーん」
悠は得意の営業スマイルで、ドライバーに近づく。
そして私たちは二時間後、私が幼少時代を送った海辺の町に到着した。