強引でもいい、私を奪って。【SPシリーズ大西編】
「うわ、懐かしい」
私たちは海辺が見える道をゆっくりと歩いた。
通学路だったその道は、何も変わっていない。
「いいところだね。俺が育ったところは山ばっかりだったな」
「山もいいじゃない」
「うん。山も好きだけど、花粉がね……」
そう言って悠は目をこする真似をした。
たしかに、山の方は花粉の量が多そうなイメージはあるな。海の潮風は花粉症にいいって聞いたことあるし。
「そっか、ここが霧子の故郷か」
「そ」
「お母さんやおばあちゃんのお墓は?」
「ないよ。適当なお寺で永代供養してもらったから」
お参りする人がいなくて、荒れ果てたお墓なんてあっても、仕方ないしね。
「なるほど」
悠はなんの前触れもなく足を止め、海の方へ体を向けた。
そして、そっと顔の前で両手を合わせる。
きっと、母や祖母に挨拶をしているつもりなんだろう。
二人の魂が海にあるなんて思ったことはないけど、空や、風や、この風景のどこかに溶け込んでいるのかもしれない。
彼が自然にそうしているから、私も自然にそう思った。