強引でもいい、私を奪って。【SPシリーズ大西編】
母がぱちんと手を鳴らした。
「ちょっと待って、なんで勝手に決めるのよ。私はお父さんとこれからのことを話せると思って来たのに。ねえ、お父さん」
私が話しかけているのが聞こえないはずないのに、義兄が父の背中を押して行ってしまう。
父はこちらを振り向いているけど、ドアを開けて入ってきた秘書らしき人にも腕を引かれて、背中を向けてしまった。
「お父さん、待って。私、この結婚をやめたいの」
ぴた、と背をむけたままの父が足を止める。
「篤志さんのことが嫌いなわけじゃない。でも、正直、愛してはいないの」
「霧子……」
かすれたような篤志さんの声が聞こえる。けど、かまってはいられない。
「私、こんな政略結婚に命なんてかけられない!」
さっきの脅迫メールが、本当に犯人から送られたものかはわからない。
けれど、それが原因なんだとしたら。
篤志さんを愛してもいないのに、命を狙われるなんてバカバカしいにもほどがある。
こんなことさえなければ、私はただの民間人で、平和な毎日を送れるはずなのに。
危険を顧みずに結婚して、その先私にどんな幸せがあるというのだろう。