隣の彼は契約者
00*プロローグ
「じゃあ、今日から俺達は秘密の恋人だ」
薄暗いオフィスにある明かりは二台のパソコンだけなのに、眼鏡の奥にある瞳も口元も笑っているのがわかる。
入社し、隣になってニ年。
はじめて見る柔らかな微笑に頬が熱くなり、顔を伏せると差し出された手が映る。いつも隣でキーボードを打つ指は男のものとは思えないほど細い。
でも、長くて無骨な手。
触るとどんな感じなのだろうと興味がわいてしまうのは自分の“趣味”のせいか。恐る恐る私も手を出すが、もどかしかったのか無理やり握られてしまった。
「っ……!」
「へー……女の手ってこんなに小さいのか」
関心するように言った彼はマジマジと握った手を見つめる。
一回りも大きな手は暖かい。というより熱い。
それが彼の熱なのか自分の熱なのか、もはやわからない私は瞼をぎゅっと閉じた。いったいどうしてこうなってしまったのか。
問い続けながら、つい数日前のことを思い出す────。