隣の彼は契約者
02*3
「だから書籍化って聞いて嬉しいよ。携帯で読めると言っても手元に置ける本の方が私は好きだし……少なくとも私は買う」
「……っ!」
カチャリと、受け皿にカップを置く音。
何より彼女の声が周りの声よりも大きく耳に届いた。
真っ直ぐな言葉と目からは、文字の感想とは違う力を感じる。
誰かのために書いたものじゃない自己満足の物語。
それでも『好き』と言ってくれる人が彼女以外にもいてくれたおかげで続けてこれた。更新することが恩返しになると思って頑張ってきた。それがもっと喜んでもらえる形になったら……。
不安の音を鳴らしていた動悸がゆっくりと落ち着きを取り戻す。
膝の上で握りしめていた両手を解いた私ははにかんだ。
「ありがと……」
* * *
社内廊下で美鶴ちゃんと別れると、勇気を振り絞って返信を打つ。
何度も文面を読み返し、震える指で送信した時は安堵の息をついた。
けれど、部署に着くと同時に鳴ったバイブに飛び跳ねるほど驚き、反動で落ちた携帯が床を滑る。慌てて拾おうとする私より先に別の手が伸びた。
「お前……そそっかしいな」
「相沢先輩!」
出て行こうとしていた先輩は大きな溜め息をつくと拾った携帯に目を移す。と、一瞬眉を顰めた。