隣の彼は契約者
02*4
それは本当に一瞬で、すぐ携帯を差し出される。
「あんま……歩きながら携帯見るなよ。ぶつかるどころか転んで怪我して入院するぞ」
「どんだけ派手に転べばいいんですか!」
失礼なと反論するように携帯を奪う。
ついでにキッと睨むが、変わらず眠そうな顔に脱力してしまった。今朝から出張だったのを差し引いてもその顔はないだろと文句も言いたいが、また鞄を持っているのに気付く。
「午後もですか?」
「ああ……急用でな。隣にいないからといってサボるなよ」
「小学生じゃありません!」
「宿題は置いてある」
「先生なんて嫌い!」
自分のデスクに積み重なった書類の束に両手で顔を覆う。
そんなコントのようなやり取りに周りは笑うが、私はふと思い出したように肩に掛けていた鞄を探った。
「じゃあ、おやつにでもどうぞ」
おやつの言葉に片眉が上がった気がしたが、構わずラップした物を三つ差し出す。それはスーパーで生地を見つけ、市販のチョコをかけてトーストした手製チョコナン。
「昨日は本当にありがとうございました。どうか納めください」
さっきのノリも合わせるように頭を下げる。
御礼だけじゃ、終わったことだと跳ね除けられそうだったからだ。
でも、何も返ってこないことに恐る恐る頭を上げる。
相沢先輩は目を丸くしていた。