隣の彼は契約者
02*5
それがとても珍しかったせいか、私の目も丸くなる。
しばらくして先輩の眉が寄っていることに気付き、察した私は胸元に手を当てた。
「裁縫は苦手ですが、高校卒業と同時に一人暮らしをはじめましたので炊事洗濯は得意です! 味見してもらった友達のお墨付きですよ! いかがですか!?」
「お前……営業が向いてるぞ」
自信満々で言ったのに呆れられた。理不尽だと思う。
不貞腐れたように私は三つの内ひとつのラップを外し、チョコナンに食いついた。今朝作ったので硬いが、それなりに美味しいと自画自賛する。
「おい……」
「ふぁい?」
リスの頬袋を作っていると苛立ったような声。
顔を上げると同時にチョコナンを持つ手首を掴まれ引っ張られる。
近付くのはさらりと流れる黒髪と端正な顔。
開かれた彼の口が、私がかじったチョコナンに重ねられる。眼鏡を通してではない、自分を映す本物の瞳と目が合った。
「勝手に俺の物を取るな」
「っ……!」
息を呑んだ私は時間が止まったように動けなくなった。
その間に私の噛み跡ごと食べた口は離れ、持っていたチョコナンを三つとも奪われる。そして先輩は何事もなく去って行った。
確かに先輩に作ってきたものだけど、それを“俺の物”って……え、実は先輩って俺様なの?