隣の彼は契約者
03*ご紹介
翌日、先輩は会議でいなかった。
でもデスクに置かれた真新しい書類には一言『美味かった』の黄色付箋。昨日と同じ鳥も描かれてあるが、満腹といったような顔に、くすりと笑ってしまった。
隣に戻ってきても週末金曜のせいか忙しく、十九時に出版社の人と会う約束をしていた私は終わらせるのに必死。けれど、こういう日に限って溜まる一方で、定時も過ぎると余計テンパっていた。
「ええと、これがアレでこれはあああ!」
「……怪獣が暴れてるみたいだな」
「ぎしゃーーーーっ!」
苛立ちから奇声で返すと、当に仕事を終え、椅子にもたれかかっていた相沢先輩が黙る。するとペンを取り、何かを書きはじめた。
「えらく急いでるようだが、何か用事でもあるのか?」
「初顔合わせがあるんです!」
「ザックリと端折ったな……何時からだ?」
「十九時!」
画面と紙を照らし合わせていると、目の端で腕時計を確認する先輩が映る。けれど、何ヵ所ものミスを見つけてしまった上、パソコンに表示されている時刻がもうじき十八時になるのを見てしまった。ふいに両手が止まる。
どうしよう、どうしよう。
電車で二駅と言っても、そろそろ出ないと間に合わない。
遅くなるって連絡する? でもこれ何時に終わるの?
混乱する頭は既に優先順位もわからなくなっている。
背中からも汗が流れ、動悸が早鐘を打ちはじめると指先が僅かに震えはじめた。
すると、ペタリ。何かが頬に触れた。